「てんでんこ」はできない…どうすれば自問
寝たきりの高齢者を助けようとした男性8人が津波にのまれ、その高齢者を含む4人が死亡・行方不明となった。
「津波てんでんこ」の教訓を知っていながら救助に向かった生還者は「『てんでんこ』はやっぱりできない。
ならばどうすれば良かったのか」と自問を続けている。
◇まだ年寄りが…
3月11日午後2時46分。
市中心部で軽トラックを運転していた消防団員の佐々木俊介さん(52)は、激しい揺れに「大津波が来る」と直感した。
ヘルメットと法被を身に着け約15キロ離れた自宅に戻ろうとしたが大渋滞に遭い途中の嬉石地区にある義父宅へ向かった。
義父と近所の高齢者を連れて一時避難場所の嬉石地区集会所にたどり着いたころ、時計は午後3時7分を示していた。
集会所の人はまばら。
ほとんどは、更に山手の市民交流センターへ逃げていた。
「年寄りがまだ下にいるっけ、助けて」。
そこに女性が駆け込んできた。
津波は遅くとも30分後とみていただけに「今から間に合うか」との思いがよぎったが、不安を振り切るように軽トラックに再び飛び乗った。
◇布団ごと救出
坂道を約250メートル下った民家の前で、知り合いの消防団員(49)らが待っていた。
寝たきりの菊池ミエさん(82)を義理の娘(52)が1人で抱えようとしたが持ち上がらず、助けを求めているという。
町内会長の成沢幹雄さん(72)もいったん避難した後に駆けつけ、集まった男性は計8人となった。
以前は雑貨店だった民家の正面はシャッターが下りていたため、成沢さんら4~5人が1階裏口から寝室に入ると、オムツ姿のミエさんに娘がズボンをはかせようと手間取っていた。
「そんなのいいから」。
遮るように布団の四隅を総出で持ち上げた。
外で待ちかまえていた男性2人がシャッターを開け、布団ごと軽トラックの荷台に積み、佐々木さんが急発進させた。
「津波が来たぞ」。
叫び声がしたのは、その瞬間だった。
進行方向から白波を立てた山のような水の壁が迫っていた。
「こっちさ入れ」。
佐々木さんは消防団員の呼び掛けで、家屋の陰になる空き地に車を動かした。
だが、あっという間に水にのまれ、車内に閉じこめられた。
車体が水に浮いて右に傾いた瞬間、助手席側のドアを開けて脱出できた。
必死の思いで浮上し、目の前にあった家の屋根によじ登った。
見渡すと家屋や電柱がごう音を立てながら濁流に押し倒され、もう軽トラックもミエさんの姿も見えなかった。
一方、成沢さんは消防団員と一緒に山手へ走ったものの、すぐ津波に追いつかれた。
しばらく小屋のへりにつかまって耐えたが、横殴りの波に打たれ2人は同時に手が離れた。
成沢さんは偶然流れてきた大型の工具箱を盾にして、がれきをよけながら夢中で泳いだ。
◇自主防災とは…
ミエさんと消防団員は現在も行方不明のまま。
救助の際にシャッターを開けた男性2人は死亡した。
「人間、助けてけろって頼まれたら絶対行く。『てんでんこ』はできないって今回よく分かった」。
佐々木さんはうつむいた。
成沢さんによると、町内会は4月1日、自主防災組織を発足させる予定だった。
全365世帯を五つのブロックに分け、1人で避難できない高齢者を手助けする段取りを詰めていた。
それも津波で保留となった。
今は避難所となった市民交流センターで運営を取り仕切っている成沢さん。
「どう考えても『てんでんこ』と自主防災組織は矛盾する」。
毎晩、避難所の運営スタッフと議論になるが、どうすれば犠牲を防げたか、まだ答えが出ない。
◇津波てんでんこ◇
津波の時には親子といえども頼りにせず、てんでんばらばらに走って逃げよという意味。
度重なる津波に見舞われてきた三陸地方で、家族や集落が全滅することを防ぐために言い伝えられてきた。
(毎日新聞)

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