世界最速の武器「京」で巨大地震から日本を守れ
2012年はそこから立ち直り、再び英知を結集して自然の猛威に備える節目の年になる。
地震などの巨大なエネルギーの解放を防ぐすべはないし、到来の時刻を予知することも難しい。
しかし周期的に発生する地震の規模や、押し寄せる津波の規模などを予測する精度が十分に高まれば、被害は最小限に抑えられる。

カギを握るのは高い演算力を持つコンピューターだが、幸いにして、日本には富士通などが開発中の世界最速の「京」がある。
出直しを図る学者らは、30年以内に70%の確率で発生するとされる連動型の「南海トラフ巨大地震」の予測に照準を合わせている。
1秒間に1京(京は1兆の1万倍)回の計算速度を持つ世界最速のスーパーコンピューター「京」。
巨額の開発費を投入しただけに、政府からはそれに見合った成果を出すことを強く期待されている。
文部科学省は次世代スーパーコンピューターの「戦略5分野」を決定。
その3番目の分野として「防災・減災に資する地球変動予測」が挙げられた。
この予測活動を担う中心的な組織が、独立法人の海洋研究開発機構だ。
2016年をめどに、東海、東南海、南海地震が連動して起こる「南海トラフ巨大地震」などの予測で一定の成果を出すことを目指している。

南海トラフ巨大地震の想定震源域
「無力だった」。
機構の地震津波・防災研究プロジェクトリーダー、金田義行氏は東日本大震災の発生当日を振り返る。
くしくもその日、文部科学省では地震調査委員会が開かれていた。
高層ビルの16階は激しく揺れ、居合わせた研究者らは3~4時間もその場にとじ込められた。
「どこが崩れた」「宮城沖か」――いや、違う。
米地質調査所(USGS)からようやく入手した「マグニチュード8.8(のちに9.0に上方修正)」という規模に、がくぜんとするほかなかったという。
今は悔しさをバネに、「京」を活用した次世代の予測システム開発をけん引している。
最大の目標は、連動型の巨大地震が起こった場合に考えられる被害の詳しいシミュレーション。
南海トラフ巨大地震が起きた場合には、東日本大震災と同様、地震と津波による複合型の被害が予想される。
「京」を使い、地震による家屋の倒壊や、街中に押し寄せる津波の大きさなどの詳細な予測を目指す。
得られた成果を、都市の避難経路などを具体的に書き込んだ実用的なハザードマップの作成などに役立てようとしている。
2002年に完成、地震シミュレーションに使われてきた海洋研究開発機構のスパコン「地球シミュレーター」は「1ヘルツ未満の地震波しかシミュレーションできなかった」(金田氏)。
建物の被害を招きやすい5ヘルツ以上の地震波のシミュレーションは、「京」で初めて可能になる。
世界一を誇る計算スピードはもちろん、大まかに言えば「『地球シミュレーター』に比べて100倍はある」(東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センターの今村文彦教授)だという「京」の並列処理能力がそれを可能にした。
津波被害の予測も、従来は制約があった。
現行の500倍とされる「京」の圧倒的な計算速度。
これを生かして津波の到達時刻を地震発生から数分遅れで割り出す「セミリアルタイム」(金田氏)予測を目指している。
「京」の処理能力を引き出すため、地震計・水圧計を備えた観測システム「DONET(ドゥーネット)」の大幅な増設を予定している。
紀伊半島沖の海底に20基配置している「DONET1(ドゥーネットワン)」に加え、紀伊水道沖に「DONET2(ドゥーネットツー)」を30基増設、計50基としたい考え。
「1cmの水深の変化も観測できる」(金田氏)という高い精度で、南海トラフ全域をモニタリングする計画だ。
「京」に演算をさせる際に使用する初期データも、予測の精度を大きく左右する。
しかし、「京」ほどの処理能力を持つスパコンでは、初期データの入力自体が大変な作業になる。都市単位の被害をシミュレーションするためには、地盤の強度や標高、周辺の河川情報といった地質データに加えて地震そのものの大きさ、到来が予想される津波の波力、建造物の大きさや強度などについても精緻な値を入力しなければならない。
それぞれの建築物の寸法はもちろん、一本一本のボルトの締め具合も計算結果に影響するが、個別の建造物の強度を入力するには膨大な時間がかかる。
そのため、衛星写真や行政等の情報をもとに、都市の建造物の強度を低層、中層、高層の3段階で推定。

都市単位で建造物の強度をマッピングし、精度を大きく損ねずに入力作業の効率化を図る手法を採用する。
今後は地震の揺れによる被害に加えて、都市部に到来した津波の浸水経路や流速に応じた建物の被害などを計算できるようにする。
「京」の並列処理能力と計算スピードをもって、従来は難しかった地震と津波の被害を合成計算し、「広域複合災害」の予測精度を上げる構えだ。
防災や減災で効果を上げるためには、「京」のシミュレーション結果を各地域に素早く流通させるなど、事後的な対策も重要になる。
このため「京」のシミュレーション手法を、各地の大学などが備えるより性能が低いコンピューターでも実行できるように標準化する作業を急いでいる。
金田氏は「『京』でしかできない、ということは裏返せば他の施設ではできない、ということになってしまう」とリスクを強調する。
スパコンだけでは、大災害から人々を救うことはできない。
それでも金田氏は長期的な目標として「(死者・不明者を)東日本大震災の半数以下にしたい」と語る。
「京」によって詳しい災害の予測が可能になっても、その情報を入手できなければ意味がない。
被害を抑えるには、一連の計算結果などを世の中に広く流通させ、住民をいかに迅速に避難させるかが極めて重要だ。
金田氏は今後の情報伝達手段として、急速に普及するスマートフォンの有効活用を提案する。
「京」による次世代型の災害予測が始まれば、住民の居場所に応じて「どこどこの避難所へ逃げなさいと、具体的に指示が出せるようになる」(同氏)。
神奈川県、富士通、日立製作所、ソニーなどが出資する第3セクターYRPユビキタス・ネットワーキング研究所(東京・品川、所長坂村健東大教授)は、スマホを使った情報伝達システムの開発を進めている。
中核になるのは「災害情報ステーション」と呼ぶ屋外設置用の小型無線ネットワーク機器。

災害情報ステーション利用イメージ
災害の発生時にスマホのための通信インフラを提供し、地域住民が必要な情報をスムーズに共有できる仕組みを目指している。
全長3~4m程度の自立式の端末で、蓄電できる太陽電池が動力源だ。
スマホは一般的に電池の消耗が激しいため、簡易充電用端子の内蔵も検討する。
ユーザーはあらかじめアプリをスマホに取り込み、利用者登録をしておく。
災害時には携帯電話の通信回線が遮断された場合でも「ステーション」がWiFiルーターの役割を果たし、インターネットを介して情報をやり取りできるようにする。
この機器を避難所になる各小学校など、地域内の複数地点にあらかじめ設置しておく。
「2012年から設置を始めたい」(YRPユビキタス・ネットワーキング研究所ユビキタス事業室の峰岸康史部長)とするが、それには国土交通省や東京都など「官」との連携が不可欠だ。
将来的には、都市単位で数千カ所の街灯や電信柱に据え付け、災害時に十分な確率で機能する強固なインフラにしたいとしている。
「ステーション」の一部が壊れても、衛星回線に切り替えて通信を確保する仕組みも取り入れる。
IC機能を持ったクレジットカートなどの情報も事前に登録しておけば、被災時にカードを「ステーション」のタッチパネルに触れるだけで、生存情報が管理用サーバーに自動送信される。

TRONSHOW2012で展示された「災害情報ステーション」の実証機

上部の安否情報画面にタッチし、カードをリーダーにかざす
これにより、家族らがお互いの居場所をすぐにつかめるようになる。
東日本大震災は、どうやらおよそ千年に1度の頻度で押し寄せてきたらしい。
南海トラフをはじめ次の巨大地震がいつやってくるかは不明だが「『千年に1度だから(被害を防げなかった)』というのはもう通じない」(峰岸氏)。
「京」による災害予測、スマホを使った情報伝達――。
「千年に1度の教訓」を生かすために、各分野で次世代技術の開発が動き始めている。
(日本経済新聞)
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