命懸けの避難放送-遠藤未希さん、道徳教材に
埼玉県教育局によると、教材は東日本大震災を受けて埼玉県が独自に作成。
公立の小中高約1250校で使われる。
遠藤さんを紹介する文章は「天使の声」というタイトル。
遠藤さんが上司の男性と一緒に、「早く、早く、早く高台に逃げてください」などと必死に叫び続ける様子が描かれ、「あの時の女性の声で無我夢中で高台に逃げた」と語る町民の声を紹介している。
教材には、埼玉県深谷市出身で、津波に流される車から市民を救出した岩手県釜石市の男性職員の話なども掲載される予定だ。
教育局生徒指導課の浅見哲也指導主事は「遠藤さんの使命感や責任感には素晴らしいものがある。人への思いやりや社会へ貢献する心を伝えたい」としている。
遠藤さんの父、清喜さん(57)は「娘が生きた証しになる」と話し、母、美恵子さん(53)は「娘は自分より人のことを考える子だった。子供たちにも思いやりの心や命の大切さが伝わればいい」と涙ながらに語った。
遠藤さんが防災無線で避難を呼び掛け続けた南三陸町の防災対策庁舎では、遠藤さんを含む町職員ら39人が犠牲となった。
佐藤仁町長が津波被害の象徴として保存の意向を示したが、遺族の強い反発を受けて解体が決まっている。

遠藤未希さんが最期まで避難を呼び掛けた防災対策庁舎(震災当時)

遠藤未希さんが最期まで避難を呼び掛けた防災対策庁舎(2012/1/25現在)
≪町民の心に刻まれた「天使の声」≫
遠藤さんを紹介した教材の要旨は次の通り。
■天使の声
誰にも気さくに接し、職場の仲間からは「未希さん」と慕われていた遠藤未希さん。
その名には、未来に希望をもって生きてほしいと親の願いが込められていた。
未希さんは、地元で就職を望む両親の思いをくみ、4年前に今の職場に就いた。
9月には結婚式を挙げる予定であった。
突然、ドドーンという地響きとともに庁舎の天井が右に左に大きく揺れ始め、棚の書類が一斉に落ちた。
「地震だ!」
誰もが飛ばされまいと必死に机にしがみついた。
かつて誰も経験したことのない強い揺れであった。
未希さんは「すぐ放送を」と思った。
はやる気持ちを抑え、未希さんは2階にある放送室に駆け込んだ。
防災対策庁舎の危機管理課で防災無線を担当していた。
「大津波警報が発令されました。町民の皆さんは早く、早く高台に避難してください」。
未希さんは、同僚の三浦さんと交代しながら祈る思いで放送をし続けた。
■「早く、早く、早く…」
地震が発生して20分、すでに屋上には30人ほどの職員が上がっていた。
すると突然甲高い声がした。
「潮が引き始めたぞぉー」
午後3時15分、屋上から「津波が来たぞぉー」という叫び声が聞こえた。
未希さんは両手でマイクを握りしめて立ち上がった。
そして、必死の思いで言い続けた。
「大きい津波がきています。早く、早く、早く高台に逃げてください。早く高台に逃げてください」。
重なり合う2人の声が絶叫の声と変わっていた。
津波はみるみるうちに黒くその姿を変え、グウォーンと不気味な音を立てながら、すさまじい勢いで防潮水門を軽々超えてきた。
容赦なく町をのみ込んでいく。
信じられない光景であった。
未希さんをはじめ、職員は一斉に席を立ち、屋上に続く外階段を駆け上がった。
その時、「きたぞぉー、絶対に手を離すな」という野太い声が聞こえてきた。
津波は、庁舎の屋上をも一気に襲いかかってきた。
それは一瞬の出来事であった。
「おーい、大丈夫かぁー」「あぁー、あー…」。
力のない声が聞こえた。
30人ほどいた職員の数は、わずか10人であった。
しかし、未希さんの姿は消えていた。
それを伝え知った母親の美恵子さんは、いつ娘が帰ってきてもいいようにと未希さんの部屋を片づけ、待ち続けていた。
■「無我夢中で高台に」
未希さんの遺体が見つかったのは、4月23日のことであった。
町民約1万7700人のうち、半数近くが避難して命拾いをした。
5月4日、しめやかに葬儀が行われた。
会場に駆けつけた町民は口々に「あの時の女性の声で無我夢中で高台に逃げた。あの放送がなければ今ごろは自分は生きていなかっただろう」と、涙を流しながら写真に手を合わせた。
変わり果てた娘を前に両親は、無念さを押し殺しながら「生きていてほしかった。本当にご苦労様。ありがとう」とつぶやいた。
出棺の時、雨も降っていないのに、西の空にひとすじの虹が出た。
未希さんの声は「天使の声」として町民の心に深く刻まれている。
(イザ!)
■未経験可。勤務時間は自由出勤。時給1,500円~の副業。


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